本書 「はじめに」より

現代ほど私たちに戦略が求められている時代はありません。
そして今後、戦略を策定できる力への期待は高まっていきます。

この戦略を策定する役割は、ビジネスを率いるリーダー、つまり社長や事業部長が担っていますが、一方で、彼らは戦略策定に深く関与できないジレンマを持っています。戦略策定と実施に必要な仕事は非常に多岐に渡り、かつ、深いスキルが必要だからです。ビジネスの顔として活躍する多忙な社長や事業部長は、このような仕事になかなか時間を取れません。

そこで、戦略プロフェッショナルが必要になります。

戦略プロフェッショナルは、リーダーと同じ視点で、リーダーを支援し、全体の状況を把握し、戦略の勘所を押さえ、関係各部門と調整しつつ戦略を策定し、実施する役割を担っています。

企業の中では、多くの場合この役割は経営企画や事業企画、マーケティング部門が担っています。しかし中堅企業などでは、社長や事業部長自らが戦略プロフェッショナルの役割も果たしている場合も多いようです。

さて、実際に戦略を策定し実施している様子を見てみると、勘所を押さえずに戦略を策定したり、現場の人たちが全く動かなかったりして、戦略が失敗することがよくあります。

また、世の中には数多くの戦略やマーケティング理論に関する書籍が出版されていますし、MBA的なマーケティング手法も流行っていますが、それらをビジネスの現場で当てはめて戦略を構築し、実施しようとしても、なかなか成果に繋がりません。

戦略プロフェッショナルが、ビジネスの現場で突き当たる課題です。

本書は、そのような課題にどのような心得で臨むべきかをまとめたものです。

企業の中で実際に戦略の立案と実践に携わっている筆者が、自身の経験を基に、ビジネスの現場で戦略を策定し、実施する場合に必要とされる考え方を、具体的な「心得」という観点で、戦略サイクルの各段階に沿ってまとめています。

本書が、企業で戦略立案と実践に携わっておられるみなさんのお役に立てば、筆者にとってこれほどうれしいことはありません。

本書で想定する読者層
すべてのビジネスにおいて戦略は不可欠です。具体的な読者像は次のとおりです。

・ 企業の中で、さまざまな戦略を構築し実施する立場にある方
・ 企業の中で、マーケティング業務を担当する方
・ 企業の中で、より戦略的に営業活動に取り組みたいと考えているセールスの方
・ 企業の中で、より戦略的に製品・技術開発・技術支援を実施したいと考えている技術者の方
・ NPOなどの団体の運営や活動をより高いレベルに引き上げたいと考えている代表や運営スタッフの方
・ 将来、企業の中でマーケティングや戦略にかかわりたいと考えている学生の方

なお、本書ではマーケティング担当者が戦略を立案する、という前提で書かれています。

しかし会社によっては、必ずしもマーケティング担当者ではなく、事業企画担当者や、セールス担当者が戦略を立案する場合もあります。その場合は、マーケティング担当者の部分を、事業企画担当者や、セールス担当者に読み替えていただければ幸いです。

本書で必要な前提知識
本書は、マーケティングや戦略の専門知識がない方にもわかりやすく理解できることを目標にしています。マーケティング理論に関する詳しい知識は必要ありません。
さまざまなマーケティング理論の現場での活用についてご紹介していますが、各理論のエッセンスは本書中で補足しています。
本書でご紹介したマーケティング理論について、さらに詳しくお知りになりたい方は、巻末にまとめている参考文献をご参照下さい。

本書の構成
本書は、戦略構築・実施の実際の流れにしたがい、次のように構成しています。順番を追って読んでいただくことで理解が進むようにデザインしています。お時間が足りない方は、ご興味のある章から読んでいただいても結構です。
また、各章の最後にある「本章のまとめ」には、その章のエッセンスをまとめていますので、ご活用ください。

・ 戦略の策定
市場と顧客に関する洞察をもとに、戦略を構築するのが、この段階です。この際の心得について、「第一章 市場と顧客を理解するために」「第二章 戦略を構築するために」でご紹介します。

・ 戦略の実施
戦略は策定だけではありません。実行が必要です。そして戦略を実行するのも、戦略プロフェッショナルの重要な仕事です。
戦略を実行する場合、マーケティングの考え方が役立ちます。マーケティングは、「マーケティングミックス」と呼ばれる4つの要素に分けられます。その4つとは、製品(Product)、価格(Price)、チャネル(Place)、プロモーション(Promotion)です。頭文字のPを取って、これらを「4P」と呼ぶこともあります。
戦略を実施する際、この4つに分けて考えていくとうまく整理できます。
この4つの心得について、「第三章 製品を開発するために」「第四章 価格を設定するために」「第五章 セールス活動と連携し、販売チャネルを開発するために」「第六章 市場とコミュニケーションするために」でご紹介します。

・ 仮説検証
ビジネスを成功させるためには、仮説検証を常に実行し続けることが必要になります。
「仮説検証」という言葉は一見難しそうですが、実は誰でも行っていることです。
つまり、最初に考えたことを実行した結果、当初考えたとおりできたかをチェックし、うまくいかない理由を考えて、次に実行する際に修正する、という方法論を、「仮説検証」と名付けているのです。
この仮説検証を進める際の心得について、「第七章 検証し、継続的な改善を図るために」でご紹介します。

・ 戦略とは何か?
本書を通じてご紹介してきた戦略の策定と実行に関する考え方に基づいて、「戦略」の定義を「第八章 戦略とは何か?」でご紹介します。

・ キャリアプラン
戦略プロフェッショナルとして、日々どのようなことを考えて実践していくべきなのか、「第九章 戦略プロフェッショナルのキャリア・プランキャリアプラン」でご紹介します。


なお、本書に掲載された内容は筆者である永井孝尚個人の見解であり、必ずしも筆者の勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。